ブライトンロックに関するつぶやき

彼は彼女が、一つの部屋あるいは一つの椅子のように、じぶんの生活にくっついているのをはっきり意識した――彼女は彼を補って完全なものとする何物かであった。…彼の中にある邪悪なもの――それは善良さがなければやって行けない代物であった。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

報酬も復讐も、慰みごとなのだった。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

「我は唯一なる悪魔を信ず（クレド・イン・ウヌム・サトゥヌム）」と＜少年＞は言った。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

「あたしは悪い子」そして哀願するように、「あたし、悪い子になりたいわ、もしあの女が言ったみたいにあの女が善くってあなたが……」（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

そして眼を開くと、毒が血管のなかですぐに疼きはじめた。洗面台の上にカビットの買物がおいてあったからである。彼は血友病にかかった子供のように、何に触れても血を流すのだった。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

結婚だなんて、と彼は考えた、――畜生、いやだ。首をくくるほうがましだ。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

彼女は指を組んでひそやかな誓いを誓う子供のようであった。彼女は静かにこう言った、「あなたが何をなさったのかなんてこと、どうでもいいの」まるで、壊れたガラス窓やどこかの扉に白墨で書いてある卑猥な文句にはぜんぜん興味をもたぬとでもいうかのように。（『ブライトン・ロック』）

「カードのことはぜんぶ知ってる」と少年は言った。彼の皮膚はすべすべして、きれいだったし、ほのかな生毛がはえていたけれども、灰いろの瞳に光っている或る種の冷酷さは、人間らしい感情が死に絶えてしまった老人を思わせた。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

灰いろの街路に並んで立っている二人のカトリック信者――彼らはたがいに理解しあっていた。彼女は、天国にも地獄にも共通している語彙を使っていたのである。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

そのうしろにどんな商品があるのかは推測するしかないのだ――健全な、旧式な、純度証明のある商品――公正、眼には眼を、法と秩序、死刑、折にふれての憂さばらし、そこにはじめじめした厭らしさもなければ、うしろ暗さもない。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

彼女は指を組んでひそやかな誓いを誓う子供のようであった。彼女は静かにこう言った、「あなたが何をなさったのかなんてこと、どうでもいいの」まるで、壊れたガラス窓やどこかの扉に白墨で書いてある卑猥な文句にはぜんぜん興味をもたぬとでもいうかのように。（『ブライトン・ロック』）

しかし、ローズがキスを期待しながらもういちど彼のほうへ顔を向けたとき、彼はやはりぎょっとするような無知を自覚したのであった。彼の口は彼女の口に触れそこねてまごついた。彼は今まで女の子にキスしたことがなかったのだ。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

いつか習慣になって……週末ごとにおれは自分を見捨てなければならなくなるんだ。おれにはあの女の子を咎めることもできない。生がおれをなぶりものにしやがって……しかもおれがあれを素晴らしいなどと考える、人事不省の瞬間さえもありやがるんだ。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

「でも、どこがいけないの？　あたしは正しいことをするのが好き――それだけのことじゃないの」（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

正と不正。まるであのひとにはそれが判ってるみたい」彼女は軽蔑をこめてささやいた、「そうよ、あのひとは火あぶりになんかならないわ。いくらなりたがったって、火あぶりにされるはずがない」（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

彼女は、自分の信じている唯一のものを守るためだったら、誰にどんな不幸を及ぼそうとも構わなかった。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

そのうしろにどんな商品があるのかは推測するしかないのだ――健全な、旧式な、純度証明のある商品――公正、眼には眼を、法と秩序、死刑、折にふれての憂さばらし、そこにはじめじめした厭らしさもなければ、うしろ暗さもない。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

「あたし、自殺してしまえばよかった。ほんとに自殺すべきだったんですわ」老人が何か言いかけたけれども、彼女はさえぎって、「赦免を乞い求めるのじゃありませんの。赦免を望んではいません。あたしは彼と同じように――地獄へ堕ちたいのです」（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

「カードのことはぜんぶ知ってる」と少年は言った。彼の皮膚はすべすべして、きれいだったし、ほのかな生毛がはえていたけれども、灰いろの瞳に光っている或る種の冷酷さは、人間らしい感情が死に絶えてしまった老人を思わせた。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

そして眼を開くと、毒が血管のなかですぐに疼きはじめた。洗面台の上にカビットの買物がおいてあったからである。彼は血友病にかかった子供のように、何に触れても血を流すのだった。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

「地獄の責苦もあるんだ」「それから天国もよ」とローズが不安そうに言った。そして、雨は果てしなく降りつづける。
「ああ、多分ね」と＜少年＞は言った、「多分ね」
（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

想像力が眼をさますことがない――それが彼の強味だった。他人の目を借りてものを見ることも、他人の神経でものを感ずることもできなかった。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

＜少年＞はふいに横目でダローを眺め、（ダローの奴は信用できる……）この醜いでこぼこの顔から、勝利と友愛と優越の感じを受取った。ちょうど、ひよわでずる賢い小学生が、今まで忠実一途にじぶんに従って来た子を、ふと学校一の悪童だと思うのに似ていた。（『ブライトン・ロック』）

畜生！　と彼は思った、おれは世界中の人間をみな殺しにしなくちゃならないのか？（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

女なんてどいつもこいつも寝床を探しているものなんだ。彼の童貞の純潔さが性欲のように首をもたげた。奴らはおれをそんなやり方で裁く、一人の男を殺す度胸、一団の愚連隊を牛耳る度胸、コリオニをやっつける度胸があるかないかではなく。（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

「でも、どこがいけないの？　あたしは正しいことをするのが好き――それだけのことじゃないの」（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）

人間は環境によって作られるのだそうだが、アイダの心は、空中広告やネオン・サインの文字のように単純に、そしてまた規則正しく動くのだった。年中傾くコップ、年中ぐるぐる廻る車輪、そしてついたり消えたりする単純な広告文句――（グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』）