文豪・菊池寛が1936年に記した「日本競馬読本」は、昭和・平成・令和と3つの時代を経ても尚、色褪せない競馬のエッセンスが詰まっています。文体を現代風にアレンジすれば、とても85年前に書かれたものだと分からないはず。本当にすごい本です。
まず私が競馬予想をするにあたり、肝に銘じているのが「我が馬券哲学」に記されている下記の言葉です。なお、現代語訳は、意味を分かりやすくするために私が原文を相当アレンジしております。ご承知おきください。
「何々は脚がわるい」と云はれし馬の、断然勝ちしことあり、またなるほど脚がわるかつたなとうなづかせる場合あり、情報信ずべし、然も亦信ずべからず。
(××は脚部不安だよ、と言われている馬が、ぶっちぎりで勝つこともあるし、あーやっぱり脚部不安だったかーと思うような負け方をするときもある。情報は信じるべきだし、信じるべきではない)
「情報信ずべし、然も亦信ずべからず」は私のようにデータ予想を信条としている者にとってはまさしく金言です。人は、見たいものを見て、見たくないものは見ない、などと言われますが、まさしく欲に目が眩んでいると、都合の良い情報ばかりピックアップして、都合の悪い情報はシャットアウトしてしまいます。
だからこそ都合の良い情報には一層の吟味を行い、疑わないといけません。ありがとう菊池先生!(そう簡単にいかないのも人間の性ですが)
他にも珠玉の言葉が並んでいますので、いくつかピックアップしてみましょう。
まずは競馬に対するそもそも論。
損を怖れ、本命々々と買ふ人あり、しかし損がそれ程恐しいなら、馬券などやらざるに如かず。
(損することが嫌で本命ばかり買う人がいる。そんなに損したくないなら馬券なんて買わなきゃいいのに)
いやほんと。菊池先生良く言った!
スターホースが出てくると、××って馬強いんでしょ?絶対勝つんでしょ?って、普段競馬をしない人が聞いてきます。そんなに強いなら100円賭けてみようかなって。こういう人に限って、外れたらブーブー文句言うんですよ。たしかに強いけど、絶対勝つかどうかは知らねーよ!それにお前よりこちらの方が全然損してるわ!
続いて馬券の奥義について、
堅き本命を取り、不確かなる本命を避け、たしかなる穴を取る。これ名人の域なれども、容易に達しがたし。
(ガッチガチの本命を当て、危険な人気馬を避け、確実な穴馬を当てる。これが名人の域なんだけど、簡単には辿り着けないよね)
本命派の人にとっても、穴派にとっても、自分のスタンスを崩さずに、本命・穴どちらも狙えるようになるには結構な修練が必要ですよね(主にメンタル面)。本塁打王や首位打者になるより、トリプルスリーを達成することの方がはるかに難しいことと同じでしょうか。
大レースの前になると飛び交う厩舎情報についても触れられています。
「厩舎よりの情報は、船頭の天気予報の如し。関係せる馬について予報は詳しけれども、全体の予報について甚だ到らざるものあり。厩舎に依りて、強がりあり弱気あり、身びゐきあり謙遜あり、取捨選択に、自己の鑑定を働かすに非ざれば、厩舎の情報など聞かざるに如かず。」
(-前半省略-。厩舎によって、強気なコメントを言うところ、逆に弱気なコメントを言うところがある。自分の馬をすごく誉める厩舎もあれば、謙遜して控えめに言う厩舎もある。厩舎のコメントを鵜呑みにして自分で判断しないならば厩舎のコメントなんて聞かない方がまし)
本当にそう。負けた後に「実は調子悪かったんです」なんてコメント出したりとか。レース前に言えよ!ってことも多々ありますよね。なので私は厩舎のコメントは、予想のファクターに入れません。そういうウエットな情報に振り回されて判断が鈍るのが一番イヤですから。
最後に競馬の醍醐味についての言葉で締めたいと思います。
自己の研究を基礎とし人の言を聴かず、独力を以て勝馬を鑑定し、迷はずこれを買ひ自信を以レースを見る。追込線に入りて断然他馬を圧倒し、鼻頭を以て、一着す。人生の快味何物かこれに如かんや。而もまた逆に鼻頭を以て破るゝとも馬券買ひとして「業在り」なり、満足その裡にあり。ただ人気に追随し、漫然本命を買ふが如き、勝敗に拘はらず、競馬の妙味を知るものに非ず。
(自分が構築した予想法を使って、本命にした馬が、最後の直線で追い込んできてハナ差で勝ったら、こんなに気持ち良いことない。逆にハナ差で負けることがあっても、一生懸命予想した結果だから悔いはないしね。何も考えないで本命買ってる内は、競馬の楽しみ方をまだまだ分かってないんじゃない)
菊池先生は別の項でも「人の予想に乗っかって高配当を当てるよりも、自分が予想して当てた低配当の方が全然尊い」とも仰ってます。やっぱり自分のお金で楽しむからには、自分で予想したいですよね。
「日本競馬読本」はこちらのサイトで公開されています。その中の「我が馬券哲学」はきちんとした現代語訳まで付いています。至高の言葉がズラリと並んでいますので、ぜひご覧ください。
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