角居勝彦(元)調教師といえば、牝馬ながら日本ダービーを制した「ウオッカ」や、砂のディープインパクトと呼ばれた「カネヒキリ」、競走馬としても繁殖牝馬としても超一流の成績を残した「シーザリオ」などなど、数多くの名馬を育て上げた名伯楽です。
惜しまれつつも、2021年2月をもって調教師を勇退し、厩舎を解散しましたが、その角居さんが上梓した本が「さらば愛しき競馬」です。前著「競馬感性の法則」でも調教師目線で、どのようにGIを捉えているのか、といった調教師ならではの目線で記されており、競馬ファンとして目から鱗が落ちる内容満載の本でしたが、本著ではさらに調教師ならでは競馬の見方が示されており、競馬予想の一助となることは間違いありません。
本書冒頭で軽く、今までの経歴がサラッと書かれていますが、それによると、角居(元)調教師は、調教助手として松田国英厩舎で勤めた後(同僚に、友道康夫(現)調教師)、調教師として開業するまでの1年は、森秀行厩舎・藤沢和雄厩舎で研修をされていた、とのこと。
ここだけの話、調教師のキャリアについてはあまり興味はなかったのですが、角居さんのキャリアを見て衝撃を受けました。
キングカメハメハやダイワスカーレットなどで知られるマツクニさん、シーキングザパールやエアシャカールの森秀行さん、レイデオロ、シンボリクリスエスの藤沢和雄さん、同僚だった友道康夫調教師も、マカヒキやワグネリアンなど多くのGI馬を管理されていますので、角居さんのキャリアには、名伯楽がズラリと並んでいます。
「ダービー馬はダービー馬から」という競馬の格言がありますが、「名伯楽は名伯楽から」ということかもしれません。
さて、本の中で、心に響いた箇所、馬券検討に使えそうだな、と思った箇所をいくつか挙げてみます。
まず馬の出走する距離について。前走から短い距離のレースに出走してくることは珍しくありませんが、その距離短縮についても、調教師の視点で触れられています。
距離短縮というと、Mの法則などではショック療法みたいな捉え方がされたりしますが、角居さんは距離短縮については、「馬に我慢を覚えさせるための手段」と語っています。たとえば2000mを一本調子で走って勝てない馬を勝たせるためには、差す競馬を覚えさせるために1600mを使う、ということはあるらしいのです。
距離短縮からの距離延長で好走した場合は、ショック療法云々ではなく、馬がタメを作って差す競馬を覚えた、と捉えた方が合理的かもしれませんね。なお、馬のメンタル管理については、第6章「厩舎」で、実際の管理馬を引き合いに出して、かなり突っ込んだところまで解説されています。正直、この章を読むだけでも、この本を買う価値はあると思います。
また、レースで負けた場合、着順よりも着差に注目する、とも綴っています。
この辺もデータで検証してみたいですよね。本当に短い距離の方が0.5秒差負けから巻き返せるのでしょうか。
他の章ももちろん読み応え十分で、上手い騎手と下手な騎手の違い、あるいは日本人騎手と外国人騎手の違い、厩舎コメントや騎手コメントに込められた裏の意味、など調教師が書いた本の中では群の抜いて、馬券検討に役立つ情報が満載です。
前著「競馬感性の法則」で、角居さんは「勝てる厩舎とそうでない厩舎の二極化が進んでいる。今後も格差は広がると思います」と記しています。角居さんが書かれた二冊を読むと、調教師がどれだけ競馬に対して向き合っているか分かります。というかそれだけ向き合ってきたから、このような素晴らしい成果が出せたのでしょうし、そりゃ旧態依然としたやり方しか知らない厩舎は置いて当たり前。今後、競馬予想における厩舎の重要性がますます高まっていくのではないでしょうか。
ちなみに、角居イズムを受け継いでいる調教師は、角居厩舎・調教助手出身の吉田直弘氏・村山明氏・吉岡辰弥氏・辻野泰之氏、そして角居さんに師事していた、上村洋行氏と田中博康氏、です。この中から名伯楽を受け継ぐ人は生まれるのでしょうか。注目です。
2021年6月23日現在、角居さんの2冊の本、「競馬感性の法則」「さらば愛しき競馬」のkindle版がセール中で30%OFFです。この機会にぜひ!(本のタイトルはなんとかならなかったのかなぁ。内容が良いのに損してる気がする)
著者:角居勝彦
価格:646円 924円(2021年6月23日時点)
出版日:2020/12/1
出版社:小学館
著者:角居勝彦
価格:616円 880円(2021年6月23日時点)
出版日:2017/4/4
出版社:小学館
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